エンゲージメントサーベイの結果を読み解くリーダーのEQ:従業員の声と幸福度・生産性向上へ
エンゲージメントサーベイは、従業員の組織に対する貢献意欲や愛着、働く上での心理的な状態を把握するための重要なツールです。多くの企業で定期的に実施され、組織課題の特定や改善施策の立案に活用されています。しかし、サーベイ結果をどのように解釈し、具体的な行動や施策に繋げるかは、人事部門にとって常に挑戦的な課題と言えるでしょう。特に、サーベイ結果に現れる「従業員の声」の背後にある要因を深く理解し、効果的な改善策を実行するためには、リーダーの存在が極めて重要になります。
本稿では、「EQと働くを考える」のサイトコンセプトに基づき、リーダーのEQ(感情的知性)が従業員エンゲージメントサーベイの結果にどのように影響を与えるのか、そのメカニズムを掘り下げて解説します。また、サーベイ結果をリーダーシップ開発や組織改善に活用するための実践的な視点を提供します。
リーダーのEQとは何か?
EQとは、自分自身の感情を認識し、理解し、管理する能力、他者の感情を認識し、理解し、共感する能力、そしてこれらの情報を活用して思考や行動を導き、良好な人間関係を築く能力の総称です。ダニエル・ゴールマンの研究などで広く知られるようになり、自己認識、自己調整、モチベーション、共感性、ソーシャルスキルといった要素が含まれます。
ビジネス環境においては、リーダーのEQがメンバーとの関係性、チームの雰囲気、そして組織全体のパフォーマンスに大きな影響を与えることが、多くの研究で示されています。従業員のエンゲージメントサーベイの結果もまた、リーダーのEQレベルを反映する鏡であると捉えることができます。
なぜリーダーのEQがエンゲージメントサーベイ結果に影響するのか?
従業員エンゲージメントサーベイの設問項目には、上司との関係性、職場での心理的安全性、承認やフィードバックの質、成長機会への期待、組織への信頼感など、リーダーの日常的な言動や態度が直接的に影響する領域が多く含まれています。リーダーのEQが高い場合、これらの項目で肯定的な結果が得られやすくなります。
具体的には、以下のようなメカニズムが考えられます。
- 共感性と思いやりのあるコミュニケーション: EQの高いリーダーは、メンバーの感情や立場を理解しようと努めます。これにより、メンバーは「自分は尊重されている」「話を聞いてもらえる」と感じ、リーダーへの信頼感が醸成されます。サーベイの「上司との信頼関係」「心理的安全性」といった項目に肯定的な影響を与えます。
- 適切な感情調整と安定性: リーダーが自身の感情を適切に管理できれば、チーム内の雰囲気は安定し、予測可能になります。突発的な感情の爆発や不機嫌な態度は、メンバーに不要なストレスを与え、心理的安全性を損ないます。リーダーの感情的な安定は、サーベイの「職場環境」「ストレスレベル」といった項目に関連します。
- 効果的なフィードバックと承認: EQの高いリーダーは、メンバーの成果や貢献を適切に認識し、具体的なフィードバックを提供します。また、改善が必要な点についても、相手の感情に配慮しつつ建設的に伝えます。これはサーベイの「承認されている感覚」「成長機会」「公正な評価」といった項目に影響します。
- メンバーのモチベーション理解と支援: リーダーはメンバー一人ひとりの内発的な動機やキャリア目標に関心を寄せ、それを支援する姿勢を示します。これにより、メンバーは「自分の成長を応援されている」「貢献したい」という意欲を高めます。サーベイの「仕事への意欲」「成長機会」といった項目に反映されます。
- 対立の建設的な管理: チーム内で意見の対立や衝突が生じた際に、EQの高いリーダーは感情的にならず、関係者の感情を理解しつつ、公平かつ生産的な解決策を探ります。これはサーベイの「チームワーク」「人間関係」といった項目に良い影響を与えます。
逆に、リーダーのEQが低い場合、これらの領域で否定的な結果が現れるリスクが高まります。例えば、メンバーの感情に無関心、自分の感情をコントロールできない、一方的な指示や批判が多い、メンバーの努力を認めないといった行動は、エンゲージメントサーベイの結果に明確な形で表れてくるでしょう。
エンゲージメントサーベイ結果をリーダーシップ開発に活用する
人事マネージャーにとって、エンゲージメントサーベイの結果は、単なる現状把握に留まらず、リーダーシップ開発の機会として捉えることができます。
- サーベイ結果とEQの関連性の分析: サーベイ結果が出たら、まず組織全体や各部署・チームの結果を分析します。特に、リーダーシップや上司との関係性に関する項目、心理的安全性やコミュニケーションに関する項目に注目します。これらの項目で低いスコアが出ているチームのリーダーは、EQスキル、特に共感性、自己調整、ソーシャルスキルなどの向上に課題がある可能性があります。
- リーダーへのフィードバックと内省の促進: サーベイ結果を各リーダーにフィードバックする際に、単にスコアを伝えるだけでなく、その結果がリーダー自身のEQに関連している可能性を示唆し、内省を促す機会とします。「メンバーが心理的安全性を感じていない」という結果が出た場合、それはリーダーの傾聴姿勢、フィードバックの仕方、失敗への許容度といったEQに関連する行動が影響している可能性が高いことを伝えます。
- EQアセスメントの活用: サーベイ結果で示唆された課題を持つリーダーに対して、EQアセスメント(例: EIなど)の受検を推奨し、自身のEQプロファイルについて客観的な理解を深める機会を提供します。アセスメント結果とサーベイ結果を照らし合わせることで、具体的な開発ポイントが明確になります。
- EQ向上を目的とした研修・コーチング: サーベイ結果やEQアセスメントで特定された課題に基づき、EQの各要素(自己認識、共感性、関係構築など)を体系的に学ぶ研修プログラムや、個別の課題に寄り添うコーチングを提供します。ロールプレイングやケーススタディを通じて、具体的な行動変容を促す実践的な内容が効果的です。
- 行動計画の策定とフォローアップ: 研修やコーチングを通じて、リーダー自身にエンゲージメントサーベイ結果の改善に向けた具体的な行動計画(例: メンバーとの1on1ミーティングを増やす、フィードバックの質を高める、チームの意見をより聞くなど)を策定してもらいます。人事部門は、これらの行動計画の進捗を定期的にフォローアップし、必要に応じて更なるサポートを提供します。
これらの取り組みを通じて、リーダーが自身のEQを向上させ、より効果的にメンバーと関われるようになることは、次回のエンゲージメントサーベイ結果の改善に繋がるだけでなく、従業員の日常的な幸福度や、ひいてはチーム・組織全体の生産性向上に大きく貢献するでしょう。
まとめ
エンゲージメントサーベイの結果は、組織の状態を示す重要な指標ですが、その背後にはリーダーのEQが大きく関わっています。リーダーの共感性、自己調整力、関係構築力といったEQスキルは、従業員の信頼、心理的安全性、モチベーション、成長意欲に直接影響を与え、サーベイのスコアに反映されます。
人事マネージャーは、エンゲージメントサーベイの結果を、単なる評価としてではなく、リーダーが自身のEQを認識し、開発するための貴重なデータとして活用すべきです。サーベイ結果に基づいたフィードバック、EQアセスメント、そしてターゲットを絞った研修やコーチングを提供することで、リーダーのEQ向上を戦略的に支援し、それが従業員のエンゲージメント、幸福度、そして組織全体の生産性向上という望ましい結果に繋がる循環を生み出すことができるでしょう。リーダーのEQ開発への投資は、持続的な組織成長のための重要な一歩と言えます。